Sさんの満州回顧 郊外の牧場

 何時だったか父と郊外の牧場に散歩に行った。何処を如何歩いたかは覚えていない。街の中と違って緑の匂いの強かった事が印象深かった。
 当時の牛乳は瓶入りで配達されるのが普通だった。相当に高価だったのでウチでは取っていなかった。戦後に数人の作家が経験を述懐して居る様な、宅配牛乳泥棒の話は聞いた事が無い。
 牧場では青草の上に転がって昼寝をした。牛の姿はまばらで、こんなに少ない牛で如何遣って沢山の牛乳を集めるのかと不審だった記憶が有る。
 父が、私の年齢で1里歩いたのは偉いと褒めた。私は走るのが苦手だが歩くのは得意だ。高校時代のマラソンでは苦しいのを我慢出来ても脚が上がらなく成るのでコースの半分は歩くのが普通だったが遠足では最後迄トップクラスで歩いた。
 当時の満州には勿論、コンビニ等と言うconvenientな物は無かったので飲食物は水筒に入れた番茶と若干の菓子とお握り持参だった。幼稚園や小学校の遠足では海苔で巻いた握り飯、卵の厚焼き、バナナ、チョコが大抵の子供の定番だった。執れも当時としては一寸した贅沢だったのである。