1960年代に年間20万トン以上あった日本のクジラの消費量は現在5000トンにも満たない。クジラは今、どこでどのように流通しているのか。

 日本は南極海と北西太平洋に年1回ずつ、数カ月ずつの航海をしてクジラを捕獲し、生態系の解明に努めている。捕ったクジラは副産物として加工販売して年間60億円近くかかる調査費用の半分程度を回収し、残りの大半は国からの援助で賄っている。

 販売価格は赤肉で100グラム398円といったところ。一番量が取れる背中の赤肉は上等な牛肉を思わせ、最も高値で取引される尾肉(尾の身)はそこに和牛のような脂が入る。

 特筆すべきは料理の万能性。刺し身から竜田揚げなど調理法はキリがない。

一般の食肉に比べるとカロリーや脂質、コレステロールが少ない反面、唾液によってうま味成分に変わるタンパク質は多い。血液をサラサラにするエイコサペンタエン酸(EPA)や脳を活性化するドコサヘキサエン酸(DHA)など不飽和脂肪酸にも富んでいる。特に注目されているのがクジラのアミノ酸が多く含む「バレニン」という成分だ。大海原を5000キロ以上泳ぎ続けるクジラのスタミナ源となっている成分で、昨年の研究機関の実験では、人間にとっても持久力の向上や疲労予防などの効果があることが分かった。太田胃散ではバレニンを含む健康補助食品を販売している。

捕鯨推進派「適正に捕獲しないと生態系が崩れる」

 食材としては一級品のクジラだが、いざ食べるとなると国際世論は真っ向から対立する。
 実は「商業捕鯨が中断されるキッカケとなった資源問題は科学的には既に解決されている」(東京海洋大学大学院の加藤秀弘教授)。捕獲頭数が減った結果、南極海のミンククジラは適正な水準を大きく超えて増えているのだ。

 クジラは自然界の食物連鎖の頂点に立つ。増えすぎたクジラは人間が消費する水産物(年間9千万トン)の3~5倍を食べており、適切に捕獲しなければ海の生態系を崩すことになる。将来、世界的な食料不足が起こる可能性もある以上、捕鯨の技術やクジラの食文化を絶やすべきではないというのが日本を筆頭とする捕鯨推進派の主張。

■反捕鯨国「頭のいいクジラを捕るのは可哀想」

 一方、オーストラリアやニュージーランド、米国など反捕鯨国の言い分は「頭のいいクジラを捕るのはかわいそう」という感情論に訴えるもの。とはいえ、嘗ては彼らも鯨油を目的に世界各地で大がかりな捕鯨を展開し、鯨油を取った後の遺骸は全て海洋に捨てていた。それが反捕鯨に転じた背景には、環境保護を旗印にしたい政治的な思惑もある。シー・シェパード捕鯨を妨害することで多額の寄付を得ている。

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