Sさんの満洲回顧 理科準備室

 此学校の2階に在った理科準備室は相当に完備されていて閑さえ有れば通ってはあれこれと見て回った。
 試験管、フラスコ、ブンゼン・バーナー等何処の理科実験室にも有る筈の一通りの設備は勿論、手動式の内部構造が解る4サイクル・エンジン模型、色度判別用の液体が入った数十本の硝子カプセル、人体骨格模型等が有った。尤も、実験は4年生迄の科目には無かった様で、実際に実験した事は無かった。
 印象的だったのは、50kgはあろうかと言う薄黄緑色の蛍石の原石だった。
 学校では飛行機のエンジンに使うのだとて蓖麻(ヒマ)を植えていた。植物油が潤滑油に成るとは考え難かったが、実際の所は知らない。
 蓖麻子油(ひましゆ)が下剤に使われる事も此頃に知った。学校で健康の為とかで年に数回、嫌に生臭い生の液体肝油を針を付けない注射器で口の奥に発射されて飲まされ、直後に口直しにドロップを貰ったが余り有り難く思えなかったのも此頃である。
 或日、学校の空き地で防空壕を掘っていた時に一人の額に他の子の振り上げた剣先スコップの先が当たり盛大に出血して泣き喚き可哀想だった。