独航船

昔函館に居た友人の話。


 小さいのでは50t、高々100t未満の独航船で台風の墓場に近い大海原に何週間もの鮭鱒漁に出掛けた漁師達には今も畏敬の念を持って居る。函館では独航船が集結する時分は特配の飲み券を持って居る派手な橙色の作業服の独航船員様々で、ウチの会社の社員でも飲み屋の付けは厳しくなった。独航船が全部出航して漁師が居なく成ると忽ち愛想が戻ったのはご愛敬である。


 鮭鱒漁とは違うが、小林多喜二の「蟹工船」と多喜二がアカの疑いで官憲の嬲り殺しに遭ったのは有名だが、札幌での「白鳥事件」に見る如く、無産組織に依る暴力革命を標榜して居た共産党に対する戦前の官憲並びにブルジョワの恐怖心は今の若者には理解し難いものだろう。