Sさんの満洲回顧 エンジン機

 此学校では毎年校庭でゴム動力模型飛行機の競技会が有り或年に、真っ直ぐ上に昇りゴム動力が無くなった所で水平飛行に移り長距離を飛んだのが優勝した。カラクリは知らないが能く工夫したものだと今でも感心している。
 友達同士で動力用のゴムが長保ちする液体が有るとか、往復のゴムを何本にして、巻く前の弛みをどの程度にすると一番効率的に使えるかとか、プロペラの軸の針金を通すビーズの形状とか色々と蘊蓄を傾けたものだ。
 郊外の自然公園では中学生達がエンジン機で遊んで居りペラ(プロペラ)のボス(始動)を掛けさせて貰って遊んだ。其時、エンジン機の胴体をしっかり掴んでいる中学生に「下手をすると指をペラに切り取られるぞ」と脅かされた。実際エンジン機のペラの回る速度はゴム動力機とは違い、轟音を伴い、子供心にも桁違いに速い、物凄いものだった。エンジン機が羨ましいよりも怖さの方が勝っていたのだから本当に子供だったのだ。
 其公園の一画では又、学生が一辺が20cm程の四角いボール紙の浅い箱に渦巻きの隔壁を作り上面を硝子張りにした中に採集した蛇を頭から入れているのが面白かった。蛇や蜥蜴は見掛けに依らず可成り乾いた肌触りだが、普通には蛙並みの嫌われ方をしているのは本人にとって甚だ遺憾な嫌われ方だろう。蛇は毒蛇も居るので油断がならない。又、其生命力の強さはトーテムにも成るし、道成寺伝説の様に執念深さの象徴にも成る。20世紀末に近く、東南亜細亜の何処かで、切り落とした毒蛇の首に20分後に咬み付かれて死んだ男も居る。喉に切れ目を入れてモロに皮を剥がされて骨と肉丈に成った蛇の体でも如何かすると何10分もクネクネと動くから大抵の人は魂消る。此有様に成った蛇の肉は薄桃色で綺麗だ。其侭焼いて喰うと骨が五月蠅くて余り美味いものではない。世界史の中で鼻の高さが問題に成った女王は乳房を毒蛇に咬ませて自殺したと言うが大した度胸の持ち主ではある。父に連れられて行った映画館で其場面だけを覚えている映画が有った。題名は覚えていない。