血圧147


 本誌・週刊ポストは2014年、「血圧147は健康値」という大特集を組んだ(5月12日号)。この根拠は、日本人間ドック学会が同年4月、報告書を発表したことにある。約150万人に及ぶ人間ドックの健診受診者のデータから、健康な人の「正常な基準範囲」の上限として、現行基準よりも大幅に緩い147という数値を公表した。

 果たして、「血圧147は健康値」という新基準は誤りだったのか。健康基準についての研究を行なう東海大学名誉教授の大櫛陽一・大櫛医学情報研究所長は、「新基準は正しかった」と断言する。

「同時期(2014年)に米連邦政府ガイドライン作成委員会(JNC8)が決めた新基準では、血圧は60歳以上なら上は150以上が高血圧とされた。それどころか60歳未満については上の基準を定めること自体に『科学的根拠がない』とも指摘しています。人間ドック学会の新基準はこの数値とも近く、高く評価されるべきものでした。

 なぜ、医療界は新基準を潰したかったのか。

「過去の調査によると、30~80歳の男女で『血圧の上が130以上』には全体の約30%の人が当てはまります。それに対し、新基準で基準範囲外とされる148以上の人は約8%しかいない。高血圧とその予備群が3分の1以下になる。この基準が臨床に適用されれば、高血圧患者が激減して町医者の経営が成り立たなくなり、薬局にも大ダメージになる。だから、業界を挙げて猛反発したのです。

 その動きを牽引したのが、降圧剤のセールスのために、学会に働きかけて血圧の基準を下げてきた集団です。欧米では『高血圧マフィア』と呼ばれるその集団によって、20年前に米国政府やWHO(世界保健機関)の血圧基準が下げられた。その反省から、基準が緩和されたのです。ところが、日本では今も既得権に固守する勢力が、学会と厚生労働省の定める基準に強い影響を及ぼし、基準がそのままという現実がある」(同前)

週刊ポスト2016年12月23日号