女性宮司

女性宮司
2017年12月8日 13時37分 デイリー新潮
少子化の影響で2040年には「神社本庁」傘下の神社でも41%もの社が消滅するという。
 日本には、大は伊勢神宮から横丁の“お稲荷様”のような小さな祠まで含めると神社が20万近くあると言われている。

神社本庁の下には都道府県ごとの神社を管轄する「神社庁」が置かれ、設立から70年近く経った今では、傘下神社(被包括神社)の宮司の人事権まで握るほどの力を持っている。
 神社本庁の規則でも神職(註・巫女のことではない)に性別はなく、最近では「女子神職会」という親睦団体もある。実際、その地域で最も格の高い「一の宮」と言われる神社に、女性宮司が就任しているケースもあるのだが、
「それでも、大きな神社や社格の高い神社では、代々宮司を務めてきた家系でも女性宮司の就任が認められないケースが後を絶たないのです」
 大分県宇佐市にある「宇佐神宮」は、約4万600社ある「八幡宮」の“総本宮”である。。
 その宇佐神宮で後継問題が浮上したのは08年のこと。当時、責任役員会が病気療養中の宮司の後任として到津家の長女で権宮司だった到津克子(いとうづよしこ)氏を選任し、それを神社本庁に具申する。だが、いくら待っても返答がなかった。
 当時の責任役員の一人だった賀来昌義氏(医師)が言う。
「この年、先代の宮司が亡くなるのですが、大分県の教育委員長(現・責任役員)が私の自宅を訪れて“宮内庁掌典長を後継者にしたい。だから承認してもらいたい”と迫ってきたのです。これに対して私は“官僚の天下りは認めない”ときっぱり拒否した。すると先方は“神社本庁宇佐神宮のような大神社の宮司に女性を任命することはあり得ない”と言い出したのです」
克子氏は神社本庁を相手取り地位確認を求めて提訴するが13年、〈審議するべき案件ではない〉と最高裁はこれを退けてしまう。
 また、別の神社関係者によると、後継者を巡って神社本庁が介入するのは、勅祭社のほか、「別表(べっぴょう)神社」と呼ばれる神社も多いという。
別表神社とは、神社本庁が特別規定で選んだ有力神社のことで本庁が人事に直接介入できます。勅祭社と同様、資産が多く、宮司の年収も高い。一般企業に例えると一部上場企業みたいなもので、神社本庁にとって絶対に手放したくない“天下り先”なのです」
 神社業界の専門紙「神社新報」(09年3月9日付)=神社本庁系=によると、神職の兼職率は、宮司が42・5%、その後継者になると68・3%にも上っている。祭祀だけでは暮らしてゆけず、他の仕事で生活を支えている「兼業宮司」が増えているのだ。
 神社のなかには、敷地を使ってマンションや老人ホーム、駐車場、冠婚葬祭の式場などの事業にも進出しているところも多い。最近では神社のネット化も進み、お札や受験グッズ、御朱印などもネットで買える神社がある。ところが、神社本庁はこうした独自の活動を良しとせず、最近では〈信仰の尊厳を損ないかねない〉として、自粛を通達している。
 ところが、神社本庁の締め付けに猛然と反旗を翻すところも出てきている。たとえば、石川県の「気多大社」のケースだ。
 ここは能登の「一の宮」という高い社格を持つ神社だが、06年に宮司の人事をめぐって、神社本庁と対立し、法廷闘争の末に本庁からの離脱を勝ち取っている。現在は、神社本庁とは関係のない「単立神社」として、女性誌に広告を出し、恋愛祈願を電子メールで受け付けるなど「縁結びの神社」を積極的にアピールしている。その結果、全国から若い男女の参拝者が増えている。
神社本庁が一番恐れているのが、こうした宮司たちの造反なのです。傘下の神社から追随する者が出てこないように、何かあれば宮司の任命権を駆使して意のままにしようとする」。
「神社と神職を守ることができなくなった組織」と見られたとき、神社本庁は今のままでいられるだろうか。


入江吉正(いりえ・よしまさ)
月刊誌、週刊誌記者を経てフリージャーナリスト。著書に『ある日、わが子がモンスターになっていた』(KKベストブック)、『中途半端なブスはグレない』(小学館eBOOKs)など。
週刊新潮」2016年9月15日号 掲載