マグロ

 例の爺さんの知り合いの話では昔、冬の樺太では真冬の早朝に鉄路を歩くと、前夜に酔ってレールを枕に寝た人の首と体がサヨナラして死んでいる事が珍しくなかったと言います。偶然に首が直立して居て其れの目に睨まれた時は相当に気味が悪かったとか。因みに轢死体を鉄道の業界用語ではマグロと言いました。運行中の列車で知らずに人を轢くと肉片やらが車両の彼方此方にしっかり張り付いて後始末が大変だったらしい。
 自殺願望者の死に方は大いに傍迷惑な列車や電車への飛び込みを始めビル屋上からの飛び降りや毒薬服用等と色々有りますが、どれも結果は、其れ以上膨れられない程に膨れ上がった青白い土左衛門とか、血塗れとか、物凄い洟垂れと排泄とか、此方が呼吸困難を起こす程の腐臭とか凄まじい死に様を他人に見せる結果に成りますから、少しでもナルシシズムの気の有る人は自殺はしない方が宜しいそうで。
 自殺と言えば古典的には藤村操が居ますが、ホンの一寸考えれば「人生が可解」な人間は何処にも居ない事は自明の事と解る筈です。ま、彼の場合は失恋も一因という見方も有りますが。禅坊主でさえ人に依っては「癌だよ」と言われれば意気消沈して衰弱死するのです。毒の有る云い方をすれば、人生に悩む事の出来る人は閑なのです。